エッジコンピューティングの活用事例
目次
エッジコンピューティングの概要とメリットをおさらい
本記事では、エッジコンピューティングの活用事例について記載していきます。エッジコンピューティングは様々な分野で活用が進んでいますが、その中でも先進的な事例について解説します。そのまえに、エッジコンピューティングについて概要とメリットをおさらいします。
エッジコンピューティングの概要
エッジコンピューティングとは、クラウドコンピューティングの対をなす考え方で、現場に配置されたデバイスやAIカメラなどのネットワークにつながる機器から得られた情報を、データセンターではなく物理的に近い場所に配置されたサーバーなどで処理をする、という概念です。エッジは『先端』や『縁』を表し、コンピューティングはメモリ、CPU、およびプログラムなど、データを処理・計算し、アウトプットするための一連の仕組みのことを指す用語で、それらを組み合わせた概念といえるでしょう。
エッジコンピューティングのメリットとは?
エッジコンピューティングには大きく分けて下記3点のメリットがあげられます。
- レイテンシが低い…クラウドコンピューティングと比較して、エッジコンピューティングはデータをその場で処理するため、圧倒的な低レイテンシを実現することが可能です。
- データをセキュアに扱える…データ処理のステップ数が少なく、外部ネットワークにさらされないため、攻撃されるリスクや漏洩するリスクが少なくて済みます。
- コスト効率が高い…巨大なデータは加工して必要な分だけをクラウドに送信するため、リソースが効率的に使えます。
次項以降で、具体的な利用事例についてみていきましょう
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製造業におけるエッジコンピューティング事例:製造ラインのIoT
製造業では工場内のラインに様々な機器を配置して製品を製造するため、それらの機器からデータを収集し利活用するためにはエッジコンピューティングが適しています。
具体的なアーキテクチャ
- 製造設備にセンサー等を取り付け、データを収集できるようにします。
- 製造設備の近くに設置されたサーバやゲートウェイにより、一次的なデータの処理をおこないます。
- 一次的にデータを処理した後、より高度なデータ処理が必要な場合や緊急性が低いもの、また、データをトータルに分析するためにクラウドへデータを転送し、緊急性の高いものなどはエッジ側でデータを処理します。
解決された課題
製造業では、1つの製造設備の故障がライン全体に影響し、結果として生産量全体に致命的な影響を及ぼすことも少なくありません。そのため、機器の異常や稼働における不具合は速やかに検知する必要があります。エッジコンピューティングを導入することで、リアルタイム性が保たれ、緊急の事態に向けた対応策が即座に得られるようになります。
製造業におけるエッジコンピューティング事例:製造ラインの異常検知(エッジAI)
ディープラーニングの推論モデルが搭載されたデバイスをエッジに配置することで、製造ラインの異常検知をセキュアかつ高速に実現しています。
具体的なアーキテクチャ
- 事前に、ディープラーニングのモデルが搭載されたデバイスを用意します。最近ではデバイスに搭載されたディープラーニングモデルは、学習は数十枚の正常データのみを使って数秒で完了する機能を備えるようになっています。学習結果は数MBのデータに保存することができ、モデルの変更やチューニング、再学習が容易にできるようになっています。
- 検査したいラインなどにカメラなどと一体化したデバイスを設置し、検査対象の製品画像を定期的に取得します。
- 取得した画像はデバイスで処理されます。異常な製品が見つかれば検知し、それを不良品として分類ができるようになっています。
解決された課題
検査対象の画像はデバイス内で処理するため、クラウドAIを利用する場合と比べて、外部ネットワークで画像を送信する処理が不要になります。そのため、送信時に懸念される情報漏えいのリスクを低減するほか、広帯域ネットワークやクラウドサービス利用料の削減にも貢献しています。
小売業におけるエッジコンピューティング事例:AIカメラによる顧客分析
店舗内に取り付けられたAIカメラの映像をエッジで処理し、顧客の動向を分析しています。
具体的なアーキテクチャ
- 店舗内に複数のAIカメラを設置します。
- AIカメラの画像を店舗内のコンピューターで処理し、画像から顧客の位置情報を抽出して、位置情報だけをクラウドに送信します。
- 来店客の位置情報を分析することで、どの時間帯に、何人の人が、店内をどのように動いたか、といった情報が分かるようになり、マーケティングに活用できます。
解決された課題
映像データは多様な用途に使えて非常に便利な反面、無駄な情報が多いのも事実です。位置情報だけを抽出することで、必要最小限のデータだけを送信するになり、個人情報が漏洩するリスクを削減したり、ネットワーク負荷の軽減に貢献しています。
自動車業界におけるエッジコンピューティング事例:自動運転
自動車の自動運転において、レイテンシは人命にかかわる致命的な結果をもたらします。例えば、ブレーキをかける判断を行うために、コンマ何秒のレイテンシが生じてしまうと自動車は5~10メートル余計に動き続けることになります。また、ネットワークをいくら高速にしても、時折我々が感じる「ネットが重い」現象が起きてしまってはどうしようもありません。このように自動運転を達成するためにはエッジコンピューティングの技術が必要不可欠になっています。
具体的なアーキテクチャ
- 自動車にカメラやレーダーなどの情報収集デバイスと、データを処理するコンピュータを搭載します。
- ブレーキの動作などの人命にかかわる操作については、エッジで処理を行い、瞬時に対応します。
- 自動車の運行状況のチェックや、より快適な運転のためのデータ収集といった、人命にかかわらない領域については、クラウドで処理を行います。ネットワークと接続された自動車(コネクティッドカー)によってデータをクラウドに送信します。
解決された課題
エッジ解析に加えて次世代通信技術である5G通信を組み合わせることで、データを収集してから操作を行うまでの処理のレイテンシを100ミリ秒の水準にしています。これは、最大で車速100km/h程度の車両まで円滑に遠隔運転できる水準であり、自動運転の実現を大きく前進させているといえます。
セキュリティのためのエッジコンピューティング事例:ウォークスルー顔認証
現在でも一部のシステムで顔認証が実現されていますが、それはデバイスの前に静止して顔を認証するシステムが一般的です。ウォークスルー顔認証とは従来の顔認証とは異なり、カメラの前で立ち止まることなく歩きながらの顔認証を可能とするシステムのことを指します。
具体的なアーキテクチャ
- 認証機器の近くに認証データが格納されているデータベースと、データ処理用のサーバーを用意します。
- ビデオから得られる映像データをストリーミング分析し、データ処理用のサーバーで顔の特徴量を算出します。
- 算出した特徴量をフィルタリングし、データベースと照合します。
- データベースとの照合結果から、顔の特徴量に合致したデータがあれば認証を通過させるようにします。
解決された課題
顔認証は生体認証の一種で、従来の認証方法であるICカードやID/パスワードによる認証よりもよりセキュアに認証を行うことができます。具体的には、ICカードの認証では貸し借りできるという側面や紛失のリスクがあり、ID/パスワードの認証では総当たり攻撃などに脆弱です。また、歩きながらほぼリアルタイムで認証を行うことで、認証の待ち時間を最小限にすることができます。ユーザーエクスペリエンスの改善と、セキュリティの向上の両方を同時に実現しています。
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まとめ
エッジコンピューティングはリアルタイムに分析を行うことで、様々な現場で活躍できる可能性があります。本記事に挙げた事例では、異常検知を実施したり、自動運転を実施したりと、人間の仕事を大幅に削減しながら正確性の向上やコストの削減を行えるようになります。エッジコンピューティングを活用することで、DX(デジタルトランスフォーメーション)を達成し、企業の生産性向上に寄与するでしょう。